人生における一大イベント

 職探しは人生における一大イベントである。

 「先生、私、どうしても日本で就職したいんです。」

 一次面談を落ちまくっているゼミ生のSさんがそう言って研究室を訪ねてきたのは、5月だった。

 その日から研究室は就職サポート塾に変わった。ホワイトボードは、これまでの自分の棚卸や、志望動機、業界への興味や、細かな職種の分析でいっぱいの文字で埋まった。業界分析も会社精査も一緒にやり、どの会社のどの職種に絞り込むか議論した。模擬の面談もやった。インパクトのある志望動機も考えた。

 さて、完璧な履歴書も、志望動機も、業界知識も整った。面談の練習も積んだ。さあもう大丈夫だと考えるのは甘い。

 世の中には同じような留学生はごまんといる。名大や名工大の有名大卒、英語に韓国語ができる留学生も多い。そのなかで無名大の中国語だけしかできない自分をどうやって選んでもらうかが重要課題である。それは生半可な表っつらだけの化粧ではとうてい勝ち得ることのできない所業である。持てる力の全て、強み弱み、度胸など人間力を総動員してとりかかる勝負である。

 そして、知恵に知恵を重ね、他の優秀な学生と同じ土俵に上らない秘策を考えた。そしてそれを実行する。

 数週間後、にこにこしたSさんが内定の書類を見せに研究室にやってきた。
「先生、有難う、本当にうれしいです。」

 単なる履歴書つくりでなく秘策まで一緒になって考え、実行を支援してあげることが、真に意味のあるサポートであろう。職探しは探す本人も支援する人間も真剣勝負である。

加藤 和彦