社会のニーズ

これまでの歴史を振り返ると随所に学べる事実は多い。その流れの中で、現在、日本は、どのような状況にあるのだろうか。戦国時代を終えた日本は、長い大平の時代といわれる江戸期を過ごした後、技術、経済力において他を圧倒する欧米諸国が植民地を拡大する時代の中で、明治維新を迎えている。今日いわれるところの「日本の4大革命」の内の3番目の革命である。その後、4番目の革命である第2次世界大戦終了後から、様々な変化があった。戦後の日本は、目まぐるしい変化の中から、自動車や電気機械などを含め、様々な産業において世界をリードしていると指摘される国家となった。

世界の大国であるアメリカ合衆国は、特に、競争社会と呼ばれ、その社会が美徳とするのは、その建国時の環境から、勤勉、節約、研究熱心であることと言われている。もちろん、様々な自然環境や人による社会の変化の中において、こうした価値観が一貫して、何の変化もなく存続しているとは思わない。しかしながら、勤勉、節約、研究熱心を重視する姿勢があると考えるとアメリカ人を理解する際に納得できる点が多かった。では、日本における美徳とはなんであるかを問えば、自分の祖国であることもあって瞬時に答えることには躊躇を覚えるのが実感である。しかしながら、日本でも、その社会的な美徳感は、アメリカ合衆国と同様に、様々な影響を受けつつ、ある程度、変化を続けながらも、何かが日本人の中に根付いているのではないかと思われる。

一方で、産業社会を見ると、経済の変化とも影響しあいながら大きな変化の跡をたどることができる。日本における人口・食糧問題、エネルギー・資源問題の変化は、世界各国におけるこれら諸問題の変化とも対応しながらも、大きく変動していることは明らかである。例えば、極端な例をさぐるには、大都市化が進んだ日本において、都市で消費される食料や資源・エネルギーがどのように変動したかを考えてみればよい。石炭から石油依存に大きく変化し、オイルショックやバブル経済の崩壊などを経験しながらも、高度経済成長以前の状況と比べると物質面での日本の生活は大変豊かになったと考える方は多いであろう。ところが、自動車が便利に利用できるからこそ、大都市において豊富な食料を入手できるのであり、その実情において、例えば、東京都の食料自給率が1%程度であることは、ほとんど意識されないでいる。

我々が向かい合わなければならないのは、こうした人口・食糧、エネルギー・資源に関わる諸事情が、確実に、しかも大半の予測よりも大きく変化する社会であり、そこで起きる諸問題であると考えるべきであろう。現在の花形産業が斜陽産業となる可能性も、形を変えながら花形でありつづける可能性もある。また、変化の中には、危機もあり、機会=チャンスも隠れていることも意識するべきではないであろうか。日本において必要な産業活動において成功するためには、こうしたチャンスを掴むことが重要である。

常に変化する社会の中で、私が自然環境に対して持つのは、「環境にやさしく」という意識ではなく、「やさしかった環境が変化している」といった意識でもない。自然環境は、今日においても「圧倒的な存在」であり常に変化を続けていると感じている。そうした環境の中で、自然の恩恵を享受し、災いを避けて、適応すること、環境と共生しようとする姿勢こそが重要であり、これこそ日本人に根付く美徳の1つであるのではないかと考える。その美徳にうえに、豊かな日本の将来を期待したい。

菅井 径世