進化し続けること

 現状に満足することなく常に切磋琢磨し進化を続けることは大切である。ひとつのところにとどまり長い年月を過ごすと慣れあいのムードに流されてしまうことが多い。人はブラック企業に入ってしまったと気がつくと、最初はこんなはずではなかったと必死で努力もするが、時間とともにその反骨意識も薄れ、まあこんなもんかと妥協の日々を過ごすようになる。自分が外に出て行くためには外の世界でも評価されなければならないし、通用するものを身につけなければならない。ある意味相当にしんどい姿勢が必要となる。あきらめてその場で浮草のように身を任せることは、刺激はないが短期的には楽(らく)であるからである。

 「転石苔を生ぜず」という諺は、日本では転職ばかりしていると一つのことを続けられない飽きっぽい人物としてマイナスの評価をされる、という意味で使われることが多い。英語では「A rolling stone gathers no moss」という。日本語に訳せばまさに「転石苔を生ぜず」なのであるが、日本での捉え方とは全く異なる意味で使われる。転がる石には苔(ここでは汚れや垢:汚職やわいろなどの悪いもの)がつきにくい。よって一つのところに留まらず転職し環境を変えることは自分自身を高めていく上で大いに良いことである。という意味である。

 私が外資の世界で働いていた頃、マネージャーに赴任したその日にアメリカ人の上司から次のように教えられた。「君はここで何年いるつもりかい。3年かい?ならばその3年間で業務上の何を達成し、何を身につけ、現状の下部組織をどのように変え、3年後には誰にそのポジションを渡して次のステップに移るかを決めなさい」と言われた。入社してポジションに着いたその日に、である。日本とアメリカの企業の働くということの考え方の違いを思い知った。職場は進化の場であり、仕事は次にステップアップするための踏み台ということである。

 しかし、進化を願えば必ず進化できるとも限らない。働く環境は転職しない限り容易に変えられるものでもなければ、転職した先が必ずしも良い環境を与えてくれる保証はないからである。それでも環境を変え自らを進化させる、あらたな高いレベルの環境に対応することで自らを高める努力をすることは大切である。英語にFailing upwards という言葉がある。上に向かって行って失敗するのは決して悪いことではないという意味である。さらに高いレベルの仕事、待遇、ポジションをめぐって、たとえ失敗してもその挑戦には価値があり賞賛に値する。

 富士通の問題社員でコンピュータ産業の父と言われ、世界最速コンピュータ開発の完成間近でクモ膜下出血で逝った「池田敏雄」の若い人に向けた言葉が思いだされる。「人というものは常に進化していない限り本当の幸福はない」そして「挑戦者に無理という言葉はない」。

加藤 和彦