春休み

 今年も卒論・修論の時期が終わった。私の研究室は、実験や観察、フィールド調査はほとんどしない。社会問題の構造化と、その問題に対する解決策の仮説を立て、それを検証するのが主な研究手法である。そのため、論文の締め切りが近くなるにつれて加速度的に学生たちのペースがあがり、多くの学生を抱える私はほとんど破綻状態になる。そんな状況でもきちんと締め切りまでに論文にまとめて提出する学生を毎年見ていると、頼もしく思えてくる。

 いろいろなところで言っていることだが、大学において卒業論文は学生にとって最大のプロジェクトだと思う。大学1年生2年生で予備知識や考える作法を少しでも学び、3年になる頃から専門分野についての問題意識を持つようになる。じっくり調査や実験をする学生もいるし、私の研究室の学生のように、最初のうちは問題の構造化ばかりしている学生もいる。それでも指導の先生とともに論文計画を立て、たいていはその計画は何度か破綻しながらも、なんとか締め切りまでに形を作り上げる。このプロセスが確実に学生を成長させていると感じている。

 ところで、すでに卒業論文を書かなくてもよい大学かあることは耳にするし、大丈夫だろうか。大人たちが若者をダメにすることだけは避けたいと思いながら、論文指導が終了したばかりのこの時期、私は暖かい気持ちに包まれている。

 加藤 悟